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遺留分は「家族の安心を守る最後の網」— 減殺請求から侵害額請求へ、その先の“10年ルール”まで

相続のご相談で、私はよくこのような相談を受けます。
「父は生前に兄の家の頭金を出していて…それって相続でどう数えるの?」
「遺言に“全部長男へ”と書いてあった。私の取り分は?」

どれも、遺留分特別受益というルールに触れるお話です。少しややこしそうに見えますが、背景にあるのは「家族の生活と公平を守る」ための配慮。

今日は、改正の趣旨と“今の正解”を、現場の実感を交えながらやさしく整理します。

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遺留分ってなに?だれが対象?

遺留分は、被相続人がどんな遺言を書いても、一定の近親者には最低限の取り分を保障する制度です。

対象は配偶者・子(直系卑属)・親(直系尊属)兄弟姉妹には遺留分はありません。家族の生活の土台を守るための“最後の網”だと考えると分かりやすいと思います。

2019年改正:現物を取り戻す時代から「お金で清算」へ

かつては「遺留分減殺請求」といって、不動産など物そのものを取り戻すのが基本。
結果として共有が生まれ、売るにも直すにも合意が要る—現場ではしばしば争いの火種でした。

2019年の改正で制度は「遺留分侵害額請求」に。原則は金銭で清算するルールに変わり、共有トラブルを避け、被相続人の意思も尊重しやすくなりました。法務省も、改正のポイントとして「金銭請求化」を明確に示しています。

遺留分の「請求期限」— 1年と10年

遺留分侵害額請求には二つの期限があります。

  • 知ったときから1年(相続開始と侵害事実を知った時から1年)

  • 相続開始から10年(10年経てば、知らなくても権利は消滅)
    条文は民法1048条。この二本立ては改正前後で大きくは変わっていません。実務上は「知ってからすぐ動く」が鉄則です。

生前贈与をどこまで遡る?— 遺留分の「10年」ルール(民法1044条)

遺留分の金額を出すとき、どの生前贈与まで計算に入れるかが以前は揉めどころでした。今は民法1044条で整理され、

  • 相続人に対する贈与相続開始前10年以内のものを原則加算、

  • 相続人以外への贈与は原則1年以内(害意があれば1年を超えても加算)
    と明文化。昔の贈与を延々と蒸し返すことを防ぎます。

「特別受益」との違い・つながり

ここで混同されがちな特別受益(民法903条)

これは共同相続人間の“公平調整”の仕組みで、婚姻・養子縁組のための贈与や、生計の資本になる贈与、遺贈などを遺産分割の計算に反映させます。一方、遺留分最低限の取り分の保障が目的。似ているけれど、目的と使う場面が違うのです。

さらに2019年改正では、婚姻20年以上の夫婦で居住用不動産(または取得資金)を配偶者が受けた場合、持戻し免除の意思が推定される特別ルール(民法903条4項)も新設。
配偶者の住まいの確保を重視した温かな改正です。

2023年改正:遺産分割に“10年の線引き”(民法904条の3)

実務で大きいのが2023年4月1日施行の変更です。相続開始から10年を過ぎた遺産分割では、原則として特別受益・寄与分を考慮しない(家庭裁判所で具体的相続分の算定をしない)というルールが明文化されました(民法904条の3)。

放置して証拠も記憶も薄れる中で、いつまでも「昔の贈与」「昔の貢献」を巡って争い続けるのを防ぐための線引き—そんな趣旨です。

例外として、10年以内に調停・審判を申立てた場合や、やむを得ない事由がある場合の猶予が条文にあります。また相続人全員が合意すれば、10年を過ぎても特別受益等を踏まえた分け方にできる余地がある点も、実務上の安心材料です。

経過措置(いつから数える?)

施行前の相続にも原則適用されますが、少なくとも施行日から5年(2028年3月末頃)の猶予を与える経過措置が設けられています。古い相続でも、期限管理を意識して早めに動くことが大切です。

ここまでのポイントをやさしく一言で

  • 遺留分は「最低限の取り分」を守る制度(対象:配偶者・子・親)。

  • 2019年改正で、現物返還→金銭清算が基本に(侵害額請求)。

  • 請求期限は1年+10年(民法1048)。知ったらすぐ動く。

  • 遺留分で計算に入れる生前贈与は、相続人への贈与は10年が原則(民法1044)。

  • 特別受益は“相続人同士の公平調整”。配偶者の住まいは持戻し免除が推定される特例あり(903条4項)。

  • 2023年改正で、遺産分割は相続開始から10年を過ぎると原則特別受益・寄与分は考慮しない(904条の3)。経過措置で施行後5年の猶予

現場からのアドバイス(やさしい実務のコツ)

  1. 「知ったら1年」— まず相談
    侵害に気づいたら1年が勝負。書面で意思表示し、交渉や調停の準備に入るだけでも違います。

  2. 記録を集める
    生前贈与の有無や時期は通帳・振込票・契約書が命。10年ルールの当てはめにも直結します。

  3. 配偶者の住まいは特例を意識
    婚姻20年以上×居住用不動産(または資金)→持戻し免除の推定。遺言でも重ねて意思を明記するとより安心。

  4. “10年の線引き”の前に動く
    遺産分割が長引いているなら、家庭裁判所への申立てを含めた具体的な動きを。経過措置が効くうちに方針を定めましょう。

おわりに

相続は、数字の話であると同時に、家族の物語でもあります。

法律はときに冷たく見えますが、改正の底にあるのは「配偶者の住まいを守る」「長い争いに終止符を打つ」という人への配慮。だからこそ、私はいつもお伝えします。元気なうちに、遺言や記録を整え、ご自身の思いを言葉にしましょう。 それが、残されるご家族へのいちばんの思いやりです。


※本記事は一般的なご説明です。個別事情や期限の起算点はケースによって異なります。迷ったら早めに専門家へご相談ください。

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