近年、オンラインゲームやSNSを通じて「海外で高収入の仕事がある」と誘われ、渡航した結果、詐欺や違法行為に加担させられるケースが増加しています。
警察庁の資料「海外で儲かる仕事は危険です!」では、こうした事例が詳細に紹介されており、私たち司法書士もこうしたトラブルの未然防止に貢献しなければならないと強く感じました。
このような事案では、多くの人が「まさか自分が巻き込まれるとは思わなかった」と口にします。しかし、一歩間違えれば誰でも被害者になり得るのが現実です。
本記事では、「海外で儲かる仕事」の勧誘がどのような手口で行われるのか、そしてその背後にある法的リスクについて詳しく解説し、万が一巻き込まれた場合の対応策についても考えていきます。
巧妙化する手口とその実態
警察庁の報告によれば、「海外で儲かる仕事」への勧誘は、主にオンラインを通じて行われています。
例えば、オンラインゲームやSNSで知り合った相手から「誰でも簡単にできる仕事」「渡航費もこちらで負担する」といった甘い言葉で誘われ、実際に渡航した後に現地で詐欺行為を強要されるケースが後を絶ちません。
また、借金を抱えた人が「すぐに返済できる仕事がある」と知人を介して紹介され、結果的に詐欺グループの一員として扱われてしまうこともあります。
一度海外に渡航すると、そこからの脱出は容易ではありません。最初の目的地とは異なる国へ密入国させられることもあり、そこでは武装した監視員に管理されながら、詐欺を行うよう強制されるケースが報告されています。さらに、ノルマを達成できなければスタンガンで暴行されるなど、過酷な状況に置かれることも珍しくありません。
また、帰国を希望した場合には、「逃げれば家族を巻き込む」「暴力団が関わっている」と脅されるケースもあり、単なる労働問題ではなく、極めて深刻な人権侵害に発展する可能性があります。
法的リスクと責任の重さ
こうした事案に巻き込まれた場合、被害者であると同時に、加害者として責任を問われるリスクも考えなければなりません。
例えば、海外で特殊詐欺を強要された場合、日本の刑法において詐欺罪が適用される可能性があります。詐欺罪は非常に重い罪であり、単なる関与であっても刑事責任を問われる場合があります。たとえ「騙されていた」と主張しても、違法行為に関わった事実があれば、免責されるとは限りません。
さらに、密入国させられた場合には、旅券法や入管法違反に問われることも考えられます。
知らぬ間に不法入国してしまったとしても、法的責任を免れることは難しく、帰国後に捜査対象となることもあります。こうしたケースでは、司法書士や弁護士などの専門家の助言が不可欠です。
また、違法行為に関与したことが明るみに出た場合、日本国内で被害者から損害賠償請求を受ける可能性もあります。特殊詐欺の被害額は高額になることが多く、関与した人物が賠償責任を負わされるケースも十分考えられるのです。
未然に防ぐために必要な心構え
こうしたトラブルを防ぐためには、まず「うまい話には裏がある」という認識を持つことが重要です。
特に、高額な報酬が提示されたり、渡航費を負担すると言われた場合は警戒すべきでしょう。また、知人を介した誘いだからといって安心せず、契約内容や仕事内容を慎重に確認することも大切です。
もし海外での仕事を紹介された場合は、事前に警察や専門家に相談することが望ましいでしょう。警察庁は「#9110」という相談窓口を設けており、早めの相談が自分自身や家族を守るための第一歩となります。また、海外に行く前に、日本大使館や領事館の連絡先を把握しておくことも有効です。
万が一、すでに渡航してしまった場合は、可能な限り早く現地の日本大使館に連絡を取り、安全な方法で帰国できるよう努めるべきです。監禁されている場合でも、SNSやメールを使って家族や友人に助けを求めることができる場合があります。
司法書士としてできる支援
司法書士として、こうした問題を未然に防ぐために何ができるでしょうか。まず、借金問題を抱えている人に対し、適切な法的支援を行うことが重要です。
違法な仕事に頼るのではなく、債務整理や生活再建のための方法を検討することで、犯罪に巻き込まれるリスクを減らすことができます。
また、若者や未成年者がターゲットになりやすいため、教育活動を通じてリスクを啓発することも大切です。特に、SNSやオンラインゲームを利用する機会が多い世代に対して、具体的な事例を交えて注意喚起を行うことで、被害を未然に防ぐことができるでしょう。
さらに、海外での法的トラブルに関する相談窓口を設け、警察や大使館と連携して救済措置を講じることも、司法書士の役割の一つとして求められています。
まとめ
「海外で儲かる仕事」という甘い言葉には、大きな危険が潜んでいます。一度巻き込まれると、犯罪に加担させられたり、命の危険にさらされる可能性もあり、決して軽視できる問題ではありません。
司法書士として、こうしたリスクを広く周知し、借金や契約トラブルに悩む人々に対し、合法的な解決策を提供することが求められています。
何よりも、「知らなかった」では済まされない事態に陥らないよう、一人ひとりが慎重に行動し、必要なときには専門家の助けを借りることが大切です。
海外で仕事を紹介された場合は、まず疑い、必ず警察や専門家に相談すること。そして、自分自身と家族の安全を最優先に考えることが、最も重要な対策と言えるでしょう。