成年後見人等の候補者とは?後見等開始の申立における注意点

成年後見制度を利用する場合、誰が成年後見人に就任するかは重要です。
家庭裁判所への後見開始申立てに際しては、成年後見人の候補者を推薦することができます。

それでは、家庭裁判所は必ず申立人が希望した候補者を選んでくれるのでしょうか。
また、候補者がいない場合はどうなるのでしょうか。

今回は、後見等開始において、成年後見人の候補者を推薦する場合の注意点について解説します。

候補者が成年後見人に選ばれるとは限らない

結論から申し上げますと、成年後見人の候補者は必ず成年後見人に選ばれるとは限りません。
これは、成年後見人にかぎらず保佐人や補助人の候補者でも同じです。

成年後見人等を選ぶにあたっては、通常、裁判所から選ばれた参与員が調査します。(家事事件手続法第40条第1項)
参与員とは、あかかじめ申立書類を閲覧し、裁判官が判断するのに参考となる意見を述べる役職です。

参与員は、候補者の適格性について、以下のような観点から検討します。

  • 申立人が候補者であれば、後見等開始の申立てをする目的は何か
  • 本人の資産が複雑であったり、多額であったりしないか
  • 親族が候補者となる場合、候補者の事務処理能力・経済状況などに問題はないか
  • 親族の1人が候補者となる場合、親族間紛争はないか
  • 本人と候補者の利害は対立しないか
  • 訴訟が予定されている等、専門的知見を要する可能性はないか

この時点で候補者に適性がないと判断されれば、候補者が選ばれることはありません。
調査後は、参与員の意見や調査官の調査結果等をもとに、裁判官が審理を行います。

成年後見人は、家庭裁判所が職権で選任します。(民法第843条第1項)
そのため、候補者が成年後見人として選ばれなくても、不服の申立てはできません。

後見開始の審判に対して即時抗告をすることは可能ですが、「候補者が成年後見人に選ばれなかった」という理由は認められません。

成年後見人等には誰が選ばれる?

内閣府の成年後見担当事務局による平成27年度報告では、親族が成年後見人等に選ばれた割合は全体の約29.9%です。
そして、親族以外の第三者が選任された割合は、全体の70.1%となっています。

親族以外の第三者の職業や件数は以下のとおりです。

職業 件数
司法書士 9,442
弁護士 8,000
社会福祉士 3,725
行政書士 822
税理士 85
精神保健福祉士 21

ご本人の子が成年後見人として選ばれた件数が5,515件のため、専門職が選ばれる確率が高いといえます。
なお、親族候補者が結果的に選ばれなかった割合は分かりません。

専門職後見人の選任は年々増えているため、親族候補者は選ばれにくい状況です。
そのため、申立て前には専門職が後見人等に選任される可能性があることをご理解ください。

なお、後見人等の候補者がそもそもいない場合、申立書に候補者を記載する必要はありません。
この場合は弁護士・司法書士等の専門職が成年後見人等に選ばれる可能性が高いと考えられます。

まとめ

家庭裁判所に後見等開始の申立てをしても、親族候補者が成年後見人等に選ばれるとは限りません。
ただし、後見事務においては定期的な裁判所への報告や専門知識が求められるためやむを得ない面もあります。

なお、見知らぬ第三者を成年後見人等として選任してほしくない場合、最初から信頼できる専門職に候補者になってもらおうと思われるかもしれません。
しかし、専門職を候補者に挙げた場合でも、必ずしもその専門職が選ばれるとは限りませんのでご注意ください。

以上、成年後見等の開始申立てをする際の注意点について解説しました。

参考条文

民法第843条(成年後見人の選任)
  1. 家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。
  2. 成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人を選任する。
  3. 成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により、又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。
  4. 成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
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