不動産などの遺産分割で代償分割する際の注意点

相続手続において複数の相続人がいる場合、一般的には、相続人全員の協議により遺産を分割します。
しかし、遺産の内容によってはスムーズに話し合いが進まないケースもあります。

例えば、被相続人の遺産が不動産のみの場合などです。
一人が不動産を相続すれば、他方は何も遺産を相続できないため、相続人間で揉めるかもしれません。

今回は、このような場合に代償金を定める際の注意点や対策を解説します。

遺産が分割できない時はどうする?

まず、被相続人の遺産が不動産のみであった場合、以下のような分割方法が考えられます。

  1. 不動産を相続人の共有名義にする。
  2. 不動産を売却した上、売却代金を相続人全員で分割する
  3. 相続人の一人が不動産を相続し、その者から他の相続人に代償金を支払う

まず、不動産を相続人の共有名義にする、1の方法はお勧めできません。
その理由は、共有者の一人に相続があった場合等は権利関係が複雑になると共に、売却したくても容易に売却できないからです。

相続した不動産に法定相続人全員が住むのであれば1の方法もあるかもしれませんが、それぞれの生活状況は変わっていきます。
例えば、相続人の一人が家を出ることになり、「家を売却して現金化したい」と考えても、他の相続人の同意がなければ売却は困難です。

その他、外壁が古くなったので修繕したいと一人が思っても、他方が同意しなければ修繕費用の分担で揉める可能性もあります。
そのため、いくら相続人間の関係が現在良好であるからと言っても、共有名義にするのはお勧めできません。

次に、不動産を売却した上、売却代金を相続人全員で分割する2のケースはどうでしょうか。
この方法は、相続人全員が不動産を売却することに異議がない場合には有効です。

不動産を売却して、相続人全員が金銭を受け取るのであれば公平といえます。
しかし、もし相続人の誰かがその不動産に住むことを望んだり、賃貸物件で借家として貸しているのであれば、2の方法も難しいでしょう。

そのため、他に残された選択肢が、「相続人の一人が不動産を相続し、その者から他の相続人に代償金を支払う」3の代償分割です。
不動産を相続できない相続人も、「代償金を貰えるのならば」と話し合いが進むことが期待できます。

もちろん、不動産を相続する側は代償金としての金銭を用意する必要がありますが、それさえクリアできれば問題ありません。
それでは、代償金を定める場合に注意するポイントを解説します。

代償金はいくら支払えばいい?

代償金を支払う場合に最も問題となるのが、「代償金をいくらにするか?」という点です。
勝手に不動産を取得する相続人が決めては問題があるため、合理性や客観性がある金額にする必要があります。

そこで、「査定額」「路線価」「固定資産税評価額」などを参考にし、最終的には話し合いで合意するのが一般的です。
この際、代償金の額があまりにも過大であった場合は、不動産取得者から他方に贈与があったみなされる可能性もありますのでご注意下さい。

代償金を支払ってもらえなければどうする?

代償金の支払い時期については、支払い期日を遺産分割協議書で定める方法などがあります。
以下は、その場合の遺産分割協議書サンプルです。

  1. 相続人甲は、下記不動産を相続する。
  2. 相続人甲は、第1項記載の不動産を取得する代償として、乙に対し、金◯◯◯万円を平成○年○月○日までに支払う。

この内容で遺産分割協議が成立すれば、協議内容に従い不動産の相続登記を申請します。
その後、期日までに相続人甲から乙に対し代償金が支払われれば、遺産分割は滞りなく完了です。

なお、不動産の相続登記は相続人自身で申請することもできますが、ご自身で難しければ司法書士に依頼することもできます。

しかし、不動産を取得した相続人甲から乙に対し代償金が支払われない場合は、どうすればいいでしょうか。
この場合、相続人乙は代償金が支払われないことを理由に、遺産分割協議を解除したいと考えるかもしれません。

ところが、判例では、「遺産分割協議は債務不履行を理由に解除できない」とされています。(最判平元2.9)
その理由の一つは、遺産分割協議が債務不履行により解除できることにすると、法的安定性が害されるためです。

そのため、代償金支払請求権のある相続人は、不動産を取得した相続人に債務の履行を求めることになります。
それでも支払いがされない場合は、紛争調整調停や訴訟などを利用するしかありません。

遺産分割の紛争調整調停とは?

遺産分割協議の紛争調整調停は、家庭裁判所に対して申し立てます。
家庭裁判所の管轄は、相手方の住所地か、当事者が合意で定める家庭裁判所です。

紛争調整調停申立てにおける必要書類は、相続手続に必要な戸籍類一式や、作成した遺産分割協議書等となります。
申立人は、代償金の支払請求権を持つ相続人です。

調停での話し合いにより合意成立が見込まれる場合、調停条項を作成して調書に記載します。
調停調書は債務名義となりますので、その後代償金の支払いがされなければ強制執行や履行勧告が可能です。

調停ができなければ、相続人は代償金支払請求訴訟を提起することもできます。

代償金を定める場合の対策は?

以上のとおり、遺産分割協議において代償金を定める場合は注意が必要です。
もし代償金の支払いがされなければ、多大な労力や時間を要するかもしれません。

代償金の定めにおいて紛争を未然に防ぐには、以下のような対策が有効です。

  1. 代償金支払い義務のある相続人に対し、担保提供を求める
  2. 不動産の相続手続と代償金の支払いを同時履行とする

1の担保提供については、費用や時間がかかります。
そのため、不動産の相続手続と代償金の支払いを同時履行とする2の方法が現実的です。

具体的には、代償金の準備ができるまで、遺産分割協議を行わないことです。

もちろん、不動産相続の代償金は高額となることも多いため、一括払いは難しいかもしれません。
その場合は、分割払いを認めるのもスムーズに話し合いを進めるためには有効な方法です。

最も大切なのは財産ではなく、相続人間の関係だと思いますので、よく話し合って決めて頂ければと思います。

まとめ

西宮の司法書士・行政書士今井法務事務所では、相続における遺産分割協議書や不動産相続登記、遺産整理全般を取り扱っております。
相続人間で紛争が顕在化している場合は、信頼できる弁護士をご紹介させて頂くことも可能です。

お困りの場合は、電話又はメールにてお気軽にご相談ください。

参考判例

共同相続人間において遺産分割協議が成立した場合、相続人の一人が他の相続人に対して右協議において負担した債務を履行しないときであっても、遺産分割はその性質上協議の成立とともに終了し、その後は右協議において右債務を負担した相続人とその債権を取得した相続人との間の債権債務関係が残るだけであり、また、遺産分割の解除を認めると、遡及効を有する遺産の再分割を余儀なくされ、法的安定性が著しく害されることになるから、他の相続人は、民法541条によって右遺産分割協議を解除することができない。(最判平元2.9)
共同相続人の全員が、既に成立している遺産分割協議の全部又は一部を合意により解除した上、改めて遺産分割協議をすることは、法律上、当然には妨げられるものではなく、遺産分割協議の修正も、右のような共同相続人全員による遺産分割協議の合意解除と再分割協議を指すものと解されるから、許されないものではない。(最判平成2.9.27)
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